表面吸着分子の振動モード計算を効率よく進める方法につ ついて解説します。 PHASEのPhonon計算では、力計算と、dynamical matrixの対 角化の計算を別々に行うことが出来ます。この機能を利用 することによって一部の原子のみ考慮した振動計算を行う ことが可能になります。 手順としては以下のようになります。 1.dynamical matrix用に力計算を行う(必要な原子数分) 2.force.dataエディットする 3.dynamical matrixの対角化を行う それぞれについて以下に説明します。 1.dynamical matrix用に力計算を行う(必要な原子数分) Phonon計算では、1原子についてx、y、zの3方向それぞれ に対して+、−の2方向の変位をさせて力計算を行います。つ まり原子数の6倍の回数の力計算が必要になります。大きな系 を計算する場合にはその回数が膨大になるために、PHASEでは それらを分けて実行する機能があります(現バージョンのPHASE のマニュアルにはまだ記載されていません)。 そのためにはPHASEの以下のようなforce_calcタグを使用します。 force_calc以下のついている3行です。 Phonon{ sw_phonon = on sw_calc_force = on force_calc{ start = 1, end = 1 } displacement = 0.05 norder = 1 sw_polynomial_fit = off sw_vibrational_modes = on } start、endは何回目の計算を実行するかを示します。上記の例 では原子リストの1番目の原子の−x方向に変位させた場合の 計算のみ行いますし、 force_calc{ start = 13, end = 18 } とするば、3番目の原子の−x方向から+z方向までの6通り を計算します。 この機能を使用して、表面吸着子の振動計算に必要な分だけの 力計算を実行します。例えば、吸着子の原子数が2で、それの みの計算を実行する場合には(入力ファイルの1,2番目の原 子が吸着子と仮定しています) Phonon{ sw_phonon = on sw_calc_force = on force_calc{ start = 1, end = 12 } displacement = 0.05 norder = 1 sw_polynomial_fit = off sw_vibrational_modes = off } とします。ここでは吸着子のみ考慮しまましたが、一般的には 基板側の原子もある程度考慮する必要があるために、この数よ りは大きく取ります。ここでは力計算しかしない(対角化をし ない)ため、sw_vibrational_modes = off とします。 2.force.dataエディットする その後、force.dataをエディットします。このファイルには基 板側の原子も全て含んだ力が出力されていますので、上記で考 慮した原子以外のデータを消去します。書式についてはマニュ アルに掲載されています。force.dataの行数は1+n*6*(1+n)  ですので(nは原子数)、エディット後は37行となります。 参考までに、force.dataの原子数を減らすためのプログラムを 添付します(大したものではないですが)。あまり少なくする と、計算がおかしくなるようなので、基板側もある程度考慮し たほうがいいと思われます。 このプログラムは対称性については全く配慮していないので、 対称性のある系を計算するときには注意してください。 3.dynamical matrixの対角化を行う その後、対角化を行います。Phononタグは以下のようにします。 Phonon{ sw_phonon = on sw_calc_force = off force_calc{ start = 1, end = 12 } displacement = 0.05 norder = 1 sw_polynomial_fit = off sw_vibrational_modes = on } この計算では力計算は行わないため、sw_calc_force = off  とします。その場合、force_calcタグは意味がなくなります。 対角化を行うので、sw_vibrational_modes = onとします。 原子数を変えているので、入力ファイルの原子リストも変更す る必要があります。この場合では、吸着子の2原子のみにしま す。基板側も考慮する場合にはその数になります。 この計算が終了すれば、mode.dataに振動モードが出力されます。 出力内容についてはマニュアルにあります。 *注意点* 上記にも書きましたが、基板側の原子数が極端に少ない場合、 吸着子の振動に強く関係する原子も省いてしまうことになり、 振動数の結果が本来の結果(全原子を考慮した場合のこと)と 大きく異なることになってしまいます。 ですので、実際の計算においては、上記2.及び3.の手続き について原子数を変えながら色々と試して、十分収束した値を 採用することをおすすめします。